過去記事でオプションやホイール戦略の基本的な解説を行ってきました。皆さんもホイール戦略全体の流れについては、かなりイメージが湧いてきたのではないでしょうか。
今回からは、いよいよ本格的にホイール戦略を実践するための「考察」を行っていきます。 「ターバイから始めて、現物を引き受けたらカバコで利益を回す…」というこの戦略、やり方自体はとてもシンプルですが、銘柄選び1つで勝敗が大きく変わります。なぜなら、この戦略は株価が予想に反して暴落した場合に大きなダメージを受けるからです。
今回は、絶対に外してはいけない「銘柄選定の基準」について、私の考察を交えて解説していきます。
ここからは米国株の話がメイン
本記事を執筆している2026年6月時点では、日本の個別株オプションはあまり取引が活発ではなく、ホイール戦略を行うことは現実的ではないと私は考えています。
そのため、ここから先は米国株オプションの前提で話を進めます。
※米国株オプション取引をご検討の際は、安全のため必ず日本の金融庁の認可を受けた証券会社をご利用ください。
そもそもの大前提:その株、数年単位で「ガチホ」できる?
具体的な数値を見る前に、まずは一番大切なマインドセットのお話です。
ホイール戦略の鉄則:
プレミアム(オプション料)の高さにつられて、明日潰れるかもしれない仕手株やミーム株(お祭り株)を選んだ時点で、それは投資ではなくただのギャンブルになります。
株価が大きく下がっても、「ラッキー!この優良株を安く買えた。配当をもらいながら気長に株価が戻るのを待とう」と思えるくらいの銘柄を選ぶこと。これがすべての土台です。
その上で、どういった基準で銘柄を絞り込んでいくべきか、5つのポイントを見ていきましょう。
基準①:ファンダメンタルズ(企業の「質」を見極める)
株価が底なし沼のように落ちていく「安物買いの銭失い」を避けるために、企業の質はしっかりとチェックしましょう。
普段の長期投資でも企業の質は当然チェックが必要ですが、ホイール戦略では私は特に以下の2点を重視しています。
黒字経営&キャッシュフローが安定していること
EPS(1株当たり利益)が過去数年間キレイに右肩上がり(または安定)であり、フリーキャッシュフロー(FCF)が毎年しっかりプラスで、財布が潤沢な企業を選びます。
キャッシュフローが安定している企業なら株価が戻るのを待つこともできますが、そうでない企業は最悪の場合、倒産で株価がゼロになるリスクがあるからです。
「配当」を出している
これも非常に強力な要素です。
万が一、引き受けた銘柄の株価が低迷してカバコを仕掛けにくい状態になっても、配当金(インカムゲイン)を受け取りながら「冬の時代」を耐えることができます。(ただし、業績悪化による減配リスクや、配当を上回る含み損を抱えるリスクには留意が必要です)
注意点:
配当を出している銘柄は、配当権利落ち前後で配当金の分だけ株価が下がります。そのため、ターバイやカバコを仕掛ける場合は、配当日と「その日にいくら株価が下がるか」をあらかじめ頭に入れてスケジュールを組むのがセオリーです。
特に高配当銘柄のカバードコールをしている場合は、配当狙いの買い手から権利行使を早められ、意図せずして現物株を売却してしまう可能性があるので、カバードコール時はこちらの可能性も意識しておきましょう。
基準②:チャートの形が「ゆるやかな右肩上がり」か「横ばい」
ホイール戦略では値下がりリスクがついて回る反面、大きな値上がり益は取れない(上限が決まっている)という特徴があります。
そのため、急騰する可能性のある成長株をあえて選ぶ必要はありません。レンジ相場、あるいはゆるやかな上昇トレンドの銘柄が理想的です。
逆に、万年右肩下がりの銘柄を選ぶのは避けるのが無難です。仮に下落トレンドの銘柄を狙うとしても、「一時の悪材料で一時的に売られているだけで、復活が見込める割安な優良銘柄」に限定するというのが私の基本スタンスです。
基準③:オプション市場の流動性が十分なこと(取引のしやすさ)
どれだけ良い企業でも、オプションの取引参加者が少ない銘柄だと、思った価格でオプションが売れずに不利な価格での取引を強いられるリスク(隠れたコスト)が発生します。
また、相場急変時に「買い戻し」や「ロールオーバー」をしたくなった際、流動性がないとすぐにポジションを閉じられなくなります。
流動性で意識するべきは以下の3つだと考えています。
取引量は圧倒的にマンスリーオプションが多い
オプションには毎週満期が来る「ウィークリーオプション」と、月1回の「マンスリーオプション(米国株では第3金曜日が満期)」が存在しますが、市場建玉や出来高はマンスリーオプションの方が圧倒的に多いです。
ただしオプション取引が活発な銘柄になると、ウィークリーオプションの建玉数や出来高も豊富なため、次の2つの条件を満たしていれば、ウィークリーオプションも十分に選択肢に入れていいと思います。
余談:ホイール戦略では45日前後のオプションを売るのがセオリーのため、あまり関係ない話ですが、ウィークリーオプションでも満期日が近い(今週満期を迎える)ものは投機的な買いが結構入っているため取引量も多めだったりします。
Bid-Askスプレッド(売買気配値の差)が狭いこと
目安として、オプション価格の10%以内、あるいは0.05ドル(5セント)以内で収まっているものが理想と考えています。
ここが広いと、オプション売買の際に意図した価格で約定せず利益が削られます。
市場建玉が豊富であること
オプションの市場建玉が少なくとも500枚〜1000枚くらいは欲しいです。
参加者が多ければ意図した価格で約定しやすいですし、相場急変時のオプションの「デルタヘッジ」、「ロールオーバー」などの取引もすぐに約定します。
基準④:オプションの満期までに決算がないこと
オプションの満期の間に決算が挟まると悪い決算が出たときに株価が暴落する可能性があります。そのため、オプションを売る前に決算日の確認は必須です。
※決算以外にも大きな個別のイベント(FDA承認(バイオ)、新製品発表、独占禁止法関連の判決など)がある場合は、そのイベント日もしっかり確認しましょう。
よく「決算やイベントを跨がずに、直前に利確して逃げればいいのでは?」という意見もありますが、決算前は株価の急変に備える投資家が増えてIV(不確実性)が高くなるため、オプション価格も高騰します。
そのためオプションを決算直前に買い戻そうとすると、株価が動いていなくてもベガの影響で損切りを迫られるケースがあるため、「決算やイベントをまたぐオプションを売って直前に買い戻す」という戦略は、妙味が薄く避けるべきだと私は考えています。
基準⑤:ボラティリティが程よいこと
銘柄によって日々の株価の変動幅は違うため、IV(インプライド・ボラティリティ)も大きく異なります。
安定している銘柄ほどIVは低く、値動きが激しい銘柄ほどIVは高くなりますが、IVが高いほどオプションの価格(リターン)も高くなります。
つまり、ホイール戦略において「安定性とリターンはトレードオフの関係」になります。
そのため、どのIV帯を狙うかは個人のリスク許容度に合わせて判断していくことになりますが、私の目線での4つのゾーン分けを紹介します。
🟢IV 20%未満:安全だけど物足りないゾーン
状態: 市場が極めて平穏なときの超安定優良株など。
とにかく安全第一で、可能な限りリスクを抑えたいとき向けです。
ただしプレミアムが安いため、ターバイ時に現金を担保として拘束される割には、利回りが物足りないと感じそうだと思っています。
また、いくら安定株とはいえ元本割れのリスクも当然あるという点には注意が必要です。
🟡IV 21% 〜 40%:バランスゾーン
状態: 適度な値動きがあり、市場でも常に注目されている優良な大型ハイテク株や、好業績のグロース株など。
ホイール戦略における「ミドルリスク・ミドルリターン」な領域です。
私の主観ではこの辺りを主戦場にするのが最もバランスが良いと考えています。
万が一株価が下落しても、パニックにならずに現物を引き受けられる安心感があり(※限度はありますが)、かつプレミアムもそれなりに厚いため、安定した利回りが期待できます。
🟠IV 41% 〜 60%:ハイリスク・ハイリターンゾーン
状態: 決算発表を数週間後に控えている銘柄や、少し値動きの激しいセクターなど。
プレミアムが非常に魅力的に見えますが、株価の乱高下も激しいです。
そのため、状況によっては「権利行使価格を通常よりかなり低め(遠く)に設定する」といった一工夫を取り入れるのも選択肢になります。
乱高下によるリスクは覚悟の上でもリターンを高めたいときには、選択肢に入ってくる領域だと思います。
ただし、値動きが激しいことで、現物株を引き受けた際の出口戦略は非常に難しいので、かなり上級者向けになると思います。
🔴IV 60%以上:極めて高リスクの警戒ゾーン
状態: スタートアップのバイオテック企業の治験結果待ち、あるいは仕手株・ミーム株など。
プレミアムは莫大ですが、基本的には何らかの重大な爆弾(リスク)を抱えています。
ホイール戦略は「引き受けた後、株価がいつか戻ること」が前提ですが、このゾーンの銘柄は暴落した後、二度と元の株価に戻らない可能性が高いです。
私はこのゾーンでのホイール戦略は見送るのが賢明だと考えています。
一応、銘柄によっては成長余地が大きい銘柄がここに含まれていることもあるので、リスクは承知の上で安くなったら長期保有になってもいいから欲しいという銘柄がある場合は、手を出すことも考えることもアリだと思います。
ただ、ホイール戦略の場合は、現物を引き受けた後にカバードコールを行う前提となり、値上がり益は取れないので、大きなリスクを背負ってまで無理にグロース株を選ぶメリットは薄いと考えています。(一応、成長を期待するならカバードコールせずに現物を持ち続けるという選択も取れますが)
また、大きなリスクを背負っていることは間違いないので、仮にポジションを持つ場合は、「総資産に対するポジションの割合をどうするか」、「損切ラインをどうするか」などのリスク管理を徹底するのが大前提になります。
もし投資する場合は、上で説明した「その株、数年単位で「ガチホ」できる?」という自問自答をいつも以上に徹底して行った上で判断すべきと考えています。
【重要】「IV Rank」、「IV Percentile」を活用しよう
上でIVの基準をお話ししましたが、「IVが35%だから売る!」と一概に決めるのは早計です。その銘柄にとって、35%という数字が「普段より高いのか、低いのか」を見極める必要があります。
- 株A: 普段のIVが20%なのに、35%に上がっている(⇒ プレミアムが相対的に割高になっており、売り手にとって数理的な妙味が膨らんでいる状態)
- 株B: 普段のIVが50%なのに、35%に下がっている(⇒ 罠! プレミアムが枯れている)
これを教えてくれるのが、前回解説した「IV Rank」と「IV Percentile」です。これらの高低を精査してエントリーするというアプローチが重要となります。
※ただし、これらが高くなっているということは、裏で何かしらの悪材料が出ているサインでもあります。その悪材料を加味した上でも「ガチホできるか」をしっかり自問自答することが大切です。
まとめ
今回はホイール戦略の銘柄選定の条件について解説しました。
「数年単位でガチホできる銘柄であること」を大前提とし、①〜③の条件(ファンダメンタルズ・右肩上がりのチャート・高い流動性)を満たす銘柄を普段からウォッチリストにマークしておくのがおすすめです。
その上で、④(決算日)や⑤(IVの水準)を確認しながら、自分のリスク許容度に合った銘柄で、心地よくホイール戦略を回していきましょう!
🌐 【次回予告】車輪を回しやすい銘柄の特徴って?
今回は、ホイール戦略で重要となる「銘柄選びの5つの基準」について解説しました。
ただ、これだけだと結局どういった銘柄を選ぶのが良いかイメージが湧かないと思いますので、次回はさらに一歩踏み込んで、銘柄の特徴を元に分析してみたいと思います。
そして、特徴を分かりやすくするための試みとして「どのセクター(業種)がホイール戦略に向いていそうか」という観点で考察してみたいと思います。
「ホイール戦略を始めたいけれど、具体的にどうやって銘柄を決めればいいの?」と悩んでいる方は、ぜひ次回の分析も参考にしてみてくださいね!
▼ 次回記事はこちら

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【ご注意】
当ブログで紹介しているホイール戦略やオプション取引は、高いリスクを伴う金融取引です。利益を保証するものではなく、元本を割り込む、またはそれ以上の損失が発生する可能性があります。取引の際はリスクを十分にご理解の上、自己責任で行ってください。

