【第3回:株をお得に買う方法ではない】ホイール戦略におけるターゲットバイイングの考え方とリスク

理論

第2回の記事でオプションの基本を説明しましたが、実はこの仕組みを利用すると、狙った株を「狙った価格で買う」か、もし買えなくても「保険料が貰える」という状態を作れるようになります。

世間一般の投資情報では、この手法「ターゲットバイイング(以降、ターバイと呼びます)」は「お目当ての株をお得に買うための裏技」として紹介されることがよくあります。しかし、「安く買うための裏技」としてしか理解していないなら、非常に危険な落とし穴にハマっている可能性があります。

「ホイール戦略」においては、このターバイは最初の投資行動であり、ここで落とし穴にハマると以降の投資戦略が崩れてしまうリスクがあります。

本記事では、一般的に語られるターバイの仕組みを整理した上で、私が考える「ホイール戦略におけるターバイの役割」と、避けては通れないリスクについて深掘りします。

ターバイで株を「買えたこと」と「買えなかったこと」がそれぞれ何を意味するのかを考え、ホイール戦略としてはどうやって利益を積み重ねていくのが理想的かを考えていきたいと思います。

💡 余談:一般的な呼び名について

ターゲットバイイング以外にも、海外や専門書では「キャッシュ・セキュアード・プット(現金を担保にしたプット売り)」とも呼ばれます。むしろ、こちらの方が一般的な呼び名になります。

ターバイってなに?(一般的に語られる話)

ターバイは、前回説明した「プットオプションの売り」を応用した戦略です。

まずは、ターバイを知らない人向けに、一般的によく言われる説明をします。

例えば、株価1,000円のとある優良企業(仮)を例に考えてみましょう。

  • 現在の株価: 1,000円
  • 希望:「素晴らしい会社だけど、1,000円はちょっと高いな。900円に下がったら買いたい!」

ここで、ターバイを仕掛けます。具体的には、「1か月後に株価が900円以下に下がっていたら、900円で買い取る約束(保険)」を売り、その対価として「保険料(プレミアム)50円」を最初に受け取ります。

こうすると、ここから満期日までに株価がどう動くかで、未来は次の2つのシナリオに分かれます。

📉 シナリオ①:1か月後に株価が900円以下に下がった場合

約束通り、とある優良企業(仮)の株を900円で買い取ります。

一見「値下がりして損した」と思うかもしれませんが、そもそも「900円なら喜んで買いたかった優良企業株」です。しかも、最初に50円の保険料を貰っているので、実質的な購入コストは 900 – 50 = 850円 になります。普通に買うより安くゲットできました!

⚠️※実質850円で買えますが、市場がどれだけ暴落していても約束した値段で買い取りとなるため、株を買った瞬間から大幅な含み損となる可能性もあります。

📈 シナリオ②:1か月後に株価が901円以上だった場合

この場合、オプションの買い手側は「900円で売る権利」を放棄するため、株を引き受ける(買う)ことはありません。

株は手に入りませんでしたが、最初に貰った50円の保険料がそのまま利益になります。株が買えなくても「保険料が貰えた」状態です。

🎯 ターバイの仕組みの図解

普通の「指値注文」と何が違うの?

900円で指値を入れる場合を以下の表にまとめました。

比較ポイント普通の指値注文(900円で待つ)ターゲットバイイング(900円のプット売り)
株価が下がらなかった時1円も儲からない(時間の無駄に…)株は買えないが、保険料(50円)が丸々手に入る!
株価が下がって買えた時900円で購入保険料の分、実質850円とさらに安く買える!
途中で900円を割り込んだが、満期には901円以上に戻った場合途中で株価が900円に触れた時点で約定し、900円で購入される満期時点で900円より高いため権利放棄され、株は買えないが保険料(50円)が手に入る!
※途中で権利行使されて株を購入している可能性もある

ホイール戦略におけるターバイの考え方

上記は一般的によく言われているターバイです。

ただ、実際は保険を売っている側なので以下のように見るのが正しいと考えています。

シナリオ①(株を引き受けた場合)

保険の売り手という立場から考えると、株を買わずに保険料だけをゲットするのが一番の「理想パターン」です。したがって、株を引き受けることになったこの状況は、ホイール戦略においては「負けパターン」とまではいかずとも「理想から外れたパターン」と言えます。

もちろん運良く底値で株を買えて、そこから上がり始めたというケースもありますが、落ちるナイフを掴むようにそのままズルズルと下がり続けることも多いイメージです。

一応、株を引き受けること自体は「想定内」の仕組みですが、理想から外れてしまっているので、ここからのリカバリー(出口戦略)が重要になってきます。

シナリオ②(株が買えず保険料だけゲットした場合)

保険の売り手としては、目論見通りの「理想パターン」です。ホイール戦略的には、ここでしっかりと保険料を稼ぎたいというのが基本スタンスになります。

ターバイの5つのデメリット

一般的なターバイの説明では、上で語られるメリットばかりがクローズアップされますが、リスクやデメリットもしっかりと理解しておく必要があります。

⚠️ デメリット①:大暴落のときは「高値掴み」になる

とある優良企業(仮)に致命的な不祥事などがあり、株価が1,000円から一気に500円まで大暴落したとします。

それでも「900円で買う約束」をしているため、900円で引き受けなければなりません。市場では500円で売られている株を900円で買うことになるため、大きな含み損を抱えることになります。

※「900円で買う約束」自体を買い戻すことも可能ですが、株価が500円まで下がっている場合、「900円で買う約束」の価値が暴騰しているため、買い戻すのに特大コストがかかります。

⚠️ デメリット②:株価が爆上げしたときに機会損失になる

ターバイを仕掛けた後、株価が1,000円から2,000円へ一気に暴騰したとします。

普通に現物株を買っていれば大儲けでしたが、この戦略だと「株は買えず、最初に貰った50円の保険料だけ」で終了します。

⚠️ デメリット③:指値注文に比べると安易に買い値の変更がしづらい

上の例で言うと、指値注文の場合は株価が910円くらいになったときに、「もっと下がりそうだから800円で指値を入れなおそう」としても何もデメリットはありません。

しかしターバイの場合は、株価が910円になった際に「800円で買う約束」に切り替えたい場合は、「900円で買う約束」をその時の時価で買い戻して決済し、「800円で買う約束」を新たに売り直す必要があります。
※条件次第になりますが、この買い戻し・売り直しの際に追加のコストや想定外の精算額が発生する場合があります。そのため、指値注文ほど安易な価格変更がしづらいというデメリットがあります。

また、上記は株価の買い値を変更する場合の変更の話ですが、途中で別の銘柄に変更したくなった場合も同じことが言えます。

⚠️ デメリット④:取引期間中に多額の資金が口座に拘束され、機会損失に繋がる可能性がある

ターバイは約束の価格を下回ったときに株を買い取る必要があるため、約束の際に証券口座に「株の購入資金(現金)」を担保として入れておく必要があり、その現金は他の金融商品への投資や生活費に回すことはできません。

そのため、ターバイ期間中は現金不足による機会損失が発生する可能性があります。

※こちらも途中で約束の「買い戻し」すれば現金は解放されますが、その時点の時価(利益確定・損切りのいずれの可能性もあり)で約束を決済することになります。

⚠️ デメリット⑤:オプション収益は確定申告が必要になる

オプション取引の利益は、一般的に普段の株取引のような「特定口座」の対象にならないため、基本的には自分で確定申告をする必要があります。(一部例外あり)

ここが少し手間の掛かるポイントです。

※証券会社の口座種別や損益通算のルールによっては確定申告が不要な場合や、申告分離課税の対象となる場合もあります。
※実際の税務処理については、必ず管轄の税務署や税理士にご確認ください。

🎯 ホイール戦略におけるターバイとの向き合い方

ここまでの特徴を踏まえると、私が考えるホイール戦略においてターバイに向いている銘柄は、「暴落リスクが低く、また仮に暴落して引き受けてもそんなに困らない(出口戦略に困らない)と思える銘柄」です。

こういった銘柄で保険料による収益の源泉にしながら、暴落によってその利益を吹き飛ばさずに着々と利益を重ねていくことが大事だと考えています。※第2回でも説明している通り、保険の売り手側は大きなリスクを背負っているので、選ぶ銘柄を1度間違えるだけで甚大な損失を被ってしまいます。

そして、もし株価が予想以上に下落して理想から外れた場合の出口戦略もセットで考えられるような銘柄を選んでターバイすることが大事だと考えています。

🏁 【次回予告】車輪(ホイール)はここから回り出す…!

今回はターバイの仕組みとメリット・デメリット、そしてホイール戦略における考え方について解説しました。

一般的には株をお得に買う方法として紹介されがちな手法ですが、ホイール戦略として考えると、まずは株の売買を約定させずに保険料を稼ぐのが基本的な狙いとなります。※上でも説明している通り、保険を売っている状況で株を引き受けるのは、保険の売り手としては、理想から外れてしまったということになります。

ただし、もし理想から外れて「実質850円で株を手に入れた(シナリオ①)」となった場合は出口戦略に繋げていく必要があります。

その際に、ターバイの相棒としてよく語られる戦略が、次回の記事で解説するものになります。お楽しみに!

▼ 次回記事はこちら

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【ご注意】
当ブログで紹介しているホイール戦略やオプション取引は、高いリスクを伴う金融取引です。利益を保証するものではなく、元本を割り込む、またはそれ以上の損失が発生する可能性があります。取引の際はリスクを十分にご理解の上、自己責任で行ってください。

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